テキストを一曲ずつ進めていく理由

レッスンしていると、良く練習してきているし、一週間でこれくらい弾けてるなら、このテキスト、全部弾けるんじゃない?と思うときがあります。

弾けていること、指の動きもきれいなこと、表現もしっかりしていること。
そんな様子を見ると、「このまま次のテキストに進んでも良いのでは?」と思うこともあります。

実際、今のテキストがまだ半分くらい残っていても、次の段階の教材に行ってもいいかな…と感じる場面は多々あります。

やっているテキスト次第では大事な曲だけ抜き出してレッスンしている子もいますが、“今のテキストを一曲ずつ”丁寧に進めることをできるだけ大切にしています。

それには、いくつか理由があります。


曲を深く味わう経験をしてほしい

ただ音を並べて弾くだけでなく、「どんな音色で弾こうかな?」「このフレーズの感じは?」と、自分で考えながら弾く時間を持ってほしいのです。

すぐに次へ次へと進むのではなく、少し立ち止まって、その曲をしっかり味わう。
それは、音楽を学ぶうえでとても大切な力になります。


“できる”ことと“身につく”ことは違う

楽譜を見てなんとなく弾けるようになるのと、その力が定着して身についているかは別の話。

一見スムーズに弾けていても、指使いがまだ不安定だったり、音の並びだけ覚えて弾いていることもあります。
一曲ずつ丁寧に取り組むことで、定着度を確認しながら確かな力を積み重ねていけるのです。


飛ばさない=学びの蓄積になる

「先に進みたい気持ち」と同時に、「じっくり丁寧にやってきた」という経験は、生徒さんの自信にもなります。

将来、少し難しい壁にぶつかったときに、
「あのとき、あの曲でこんな風に頑張ったな」
「ちゃんと練習すれば、できるようになったな」
という“自分の中の成功体験”が支えになります。


目標があるからこそ、飛ばさない

はっきりした目標がある生徒さんほど、今このテキストのレベルを終えておいてほしい、というところがあります。

けれど、だからといって一気に先に進むことはしません。

目標があるからこそ、基礎を丁寧に積み重ねておくことが大事。
その過程を飛ばしてしまうと、どこかでバランスが崩れてしまいます。

ピアノは「急がば回れ」の世界。

たとえ地味に感じるようなテキストでも、それを一歩ずつ自分の足で踏みしめて進んだ道のりは、必ず未来の力になります。

「一曲ずつやる意味」大切にしたいと思っています。